ところが、市ノ瀬牧人は (コメント数:1) |
1 Ryou 2014-05-16 11:11:43 [URL]
ところが、市ノ瀬牧人は、近所の知合いの家で昼の支度を頼んであるからと、先にたつて歩きだす。そんな必要はないのにと、彼女がいくら迷惑がつても、いつこう耳をかさぬ。 しかたがなしに、ついて行くと、谷あいの一段低くなつたところに、さゝやかなわらぶきの一軒家があつて、主婦らしい中年の女が、土間でなにやら言いわけめいたことをくど/\と言つていた。 いろりには大なべがたぎり、すゝけた天井から煙が舞いおりている。 市ノ瀬牧人は、よほど懇意な間がらとみえ、つか/\といろりばたへあがつて、なべの中をのぞいてみたりしている。 「ウサギじるをたのんどいたんだが、どんなあんばいかな。さあ、こつちへあがつてください」 この家の主人は炭焼きが本職で、猟もするのだと聞かされて、井出康子は、やつと、このもてなしの意味がわかつた。 飯もたいてあるというので、彼女は出しかけた弁当の始末に迷つた。 が、ともかくも、風変りな昼食であつた。ドンブリには、骨ぐるみぶつ切りにしたウサギの肉が山盛りに盛られた。 「どうです。加減は?」 「とてもけつこう。だけど、この分量はちよつと……。ねえ、トムちやん」 と、彼女は、ひとくちしるを吸つたあとで、はしのつけようがないという顔をした。 |
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