材大なれば用を為し難し

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それから一と月ばかりたつた (コメント数:1)

1 Ryou 2014-01-25 11:28:42 [URL]

 それから一と月ばかりたつたある日の昼すぎ、素子は伯爵家の書庫で最近買入れた古文書類の目録を作つてゐた。
「斎木さん、お電話……」
 と、奥女中のお鶴さんが知らせに来た。出てみると、男の声で、
「いまお暇ですか?」
 咄嗟に、いろんな男の顔が眼に浮んだ。
「どなた?」
「僕、幾島です。ちよつとお目にかゝりたいんですが……」
 彼女は、ちよつと躊つた末、
「あたくしに? えゝ、それやいゝけど、今すぐ?」
「早い方がいゝんです。若しできたら、伯爵にもちよつと会へるやうにしてください、これや、しかし、今日でなくつても……」
「ぢや、こちらへいらしつてよ、お待ちしてますわ。伯爵のご都合はあとで伺つてみますから……」
 さう返事をして電話を切つたものの、いつたいどんな用事で、こんなに急に会ひたいといふのか、殊に伯爵に会はせろといふのはどういふ目的なのか、彼女は、彼のその後の消息をまるで聞いてゐないだけに、ちよつと気になつた。
 が、やがて、取次の給仕が彼の名刺を持つて来た。
「小さい応接、空いてるわね。あつちへお通して」
 幾島暁太郎は、その応接の瓦斯ストーヴの前で、珍しさうに部屋の様子を見廻してゐた。
「いらつしやい。随分ご無沙汰ね。今日はなに、お休み?」
 素子は、女主人ではないが、それでゐてちやんと自分の家にゐる気安さを、すべてに示してゐた。
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