材大なれば用を為し難し

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大きくうなづいて (コメント数:1)

1 Ryou 2014-01-25 11:30:52 [URL]

 大きくうなづいて、素子は、相手の燃えあがる瞳の輝きを、自分の瞳のなかに感じてゐた。
「山へは何時いらしつたの?」
 と、彼女は静かに訊ねた。
「えゝと、二度行つたんですが、最初は、この月はじめでした。二度目の時は、あそこから峠を越えて、軽井沢の方を廻つて来ましたよ。もう木の葉がすつかり落ちて、満目蕭条といふ眺めでしたけれども、いゝお天気で……」
「あら、ずるいわ……」
「曾根の青年諸君が二人、峠まで道案内をしてくれました」
「意気投合ね、すつかり?」
「まあ、そこまではね。しかし、その後はどういふことになるかわかりません。僕は、わざと向うの事務所の人には何もいはずに来ました。これが結局、事を面倒にしてるんですから……」
 扉をノツクするものがあるので、二人は一斉にそちらを見た。素子は、返事をする代りに起つて行つた。が、出会ひがしらに扉が開いて、伯爵の姿がにゆつとそこへ現れた。
「あら……」
 と、素子は、ちよつと困つた風であつた。
 幾島は、席を離れて、もぢもぢした。
「なんだ、君か……うん……幾島君だつたな。まあ、まあ、掛けたまへ……。さうか……。僕に用はないの?」
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