材大なれば用を為し難し

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さあ、かうなると (コメント数:1)

1 Ryou 2014-03-27 09:45:36 [URL]

 さあ、かうなると、問題が微妙になります。病床にゐる夫を中心とした根本一家への同情と解してしまへば事は簡単なのに、それを彼女は平然と飛び越えて、わざわざ免倒な疑問へ自分を引きずり込んでゐるのです。それは結局、「自分といふ家内がゐなくても、はたして、伏見菊人は、たゞ妹を介しての因縁だけで、これほど親身になつてくれたであらうか」です。もつと突つ込んで云へば、――「伏見がこれほどまでに何もかも世話を焼いてくれるのは、たゞ、自分といふ一個の女性、人妻であるなしは別として、たゞ、女である自分に、よく思はれたいためではなからうか?」といふことです。
 保枝は、はつきりこゝまでは考へませんでしたけれども、頭のなかで、いや、むしろ胸の奥で、伏見菊人の自分に対するある種の特別な感情を、かすかながら想像しないではゐられませんでした。意味ありげないろいろな言葉のはしばし、無理な註文をおいそれと引きうける、あの気軽さのなかにのぞかせる争へぬ満悦、時として、不用意に自分の横顔に注いでゐるあの熱い瞳……彼女は、急に、夜具の襟に顔を埋めて、自分のはしたない妄想を追い払はうとしました。
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