材大なれば用を為し難し

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うつとりと耳を澄まして (コメント数:1)

1 Ryou 2014-03-27 09:46:36 [URL]

 うつとりと耳を澄ましてゐる夫の方へ、彼女は、時々、一瞥を投げました。横向きの静かな顔ですが、瞼がなによりも深い陶酔を語つてゐます。
 曲が終ると、夫の卯吉は、独語のやうに呟きました。
「おれは大庭常子をちよつと見直したよ。おれがいままで持つてゐた女の概念にあてはまらないところにある。しかし、やつぱり女だ。類のない女だ」
 保枝は、その言葉をたしかに耳にはさんだのですが、そのまま勝手の方へ来てしまひました。ぐつと胸につかへるものがありました。なにか黙つてはゐられない、反撥を感じさせられる言葉でしたが、ガスが思ふやうに出ないのに気をとられて、ついそのことは忘れてしまつたのです。
 ところが、夕食の時間に、子供を探しに門口へ出ようとすると、一枚の端書と一通の封書とがそこへ投げこんであるのをみつけ、急いで拾ひあげると、封書の方の差出人は大庭常子で、長野県軽井沢間島様方としてあります。「おや」と思ひながらその場で封を切つて、書簡箋五六枚に例の悪筆で乱暴に書きとばした文句を、ざつと読み通しました。
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