材大なれば用を為し難し

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「こゝはどういうおうちですか」 (コメント数:1)

1 Ryou 2014-05-17 12:05:46 [URL]

「こゝはどういうおうちですか」という市ノ瀬牧人の問いに、井出康子は、いたずらつ子のように笑いながら、
「どういうおうちつて、あたしのうちよ。父が最近なくなつて、そのあと始末をしに来たの。ほかにだあれもいないんですもの」
 それはその通りであつた。彼女がかたづくと間もなく、一人の兄は病死し、兄嫁が実家へ帰つてしまうと、独り者の父は、えたいの知れぬ女をどこからか連れ込んで身のまわりの世話をさせていたが、近所の話では、その女にはほかに男があり、父の死後も、がんとしてこの家に居据わるつもりでいるらしい。
 ところが、父は、かねて万一の場合のことを弁護士に託してあつたので、その弁護士からの呼び出しで、康子は、ともかく東京へ出て来た。そして、そのまゝ、いなかを引きあげることにしたのである。そういうわけで、現在、自分の実家には違いないが、いわば父の情婦であつた女と同じ屋根の下に住み、そのうえ、町内のり災者だという二家族にいくつかの部屋を占領され、それはそれでいゝとして、彼女は、息子のモトムと二人、二階の寝室二部屋とこの応接間とをわずかに自由に使える身分であつた。
 が、そういうこまかい説明は、市ノ瀬牧人にする必要もなく、彼女はすぐに、言葉をついだ――
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