材大なれば用を為し難し

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「どうしたんです、いつたい?」 (コメント数:1)

1 Ryou 2014-05-17 12:06:35 [URL]

「どうしたんです、いつたい?」
 と、市ノ瀬牧人は、この、だしぬけの話に、まだそれほど興がわかぬらしい。
「どうしたもこうしたもないのよ。ほら、婚約の方があつたでしよう? とう/\戦争裁判の判決があつたらしいの。それが、重労働二十年ですつて……」
「二十年!」
 市ノ瀬牧人は、やつと真剣な顔になる。
「まあ、ちよつと考えてごらんなさい。二十年つていうと、子供が大人になるのよ。娘がお婆さんになるのよ」
「わかつてます。こたえるなあ」
「北原先生は、それまで、まあ/\、希望をもつてらしつたわけよ。死刑よりは軽いつていつたつて、どう、市ノ瀬さん、北原先生にとつて、どつちが辛いとお思いになる?」
 彼は、返事ができなかつた。
「お手紙にはこうあつたわ……五年十年なら待ちます。二十年といえば、わたしは四十六です。待つことが待つことになるでしようか……」
「待てないことはないでしよう」
 と、市ノ瀬牧人は、低くつぶやいた。
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