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材大なれば用を為し難し

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この屈辱が1 Ryou 2013-09-30 15:06:25 Ryou
ある朝、グレゴール・ザムザが1 Ryou 2013-09-30 11:13:30 Ryou
それから父は声を高めた1 Ryou 2013-09-30 11:12:05 Ryou
「万倍もでしょうよ!」1 Ryou 2013-09-30 11:11:39 Ryou
お前の婚約者に1 Ryou 2013-09-30 11:11:16 Ryou
そのままそこにいるがいい1 Ryou 2013-09-30 11:10:53 Ryou
もちろんわしは1 Ryou 2013-09-30 11:10:25 Ryou
「わしをよく見ろ!」1 Ryou 2013-09-30 11:07:22 Ryou
だからお前は1 Ryou 2013-09-30 11:06:35 Ryou
あの友人のことを1 Ryou 2013-09-30 11:05:10 Ryou
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1 Ryou 2013-09-30 15:06:25 [URL]

「この屈辱が、おわかりになりますか?」
 旅人は何も言わなかった。
 将校も無言だった。両足を広げ、両手を腰に添えて、地面を見ながら、静かに立っていた。
 それから、旅人をはげますように微笑んだ。
「昨日、私はあなたのそばにいたんですよ。ちょうど司令官が処刑を見学してほしいとお願いしたときです。私にもその言葉が聞こえました。司令官のことはよく知っていますから、すぐにわかりました。どういうもくろみで、あなたにお願いしたのかが。司令官の力は絶大で、私に対して断固とした処置を執ることもできるのですが、今まで、あえてしようとはしませんでした。そこでおあつらえ向きに、あなたがやってきて、名のある外国人の判断を仰げば、と思ったのでしょう。計算高い男です。あなたはここに来てまだ二日です。昔の司令官のことや、彼の思想哲学を知らないし、あなたは西方の国の常識というやつに慣らされている。もしかすると、あなたは死刑廃止論者というあれかもしれないし、特にこのような機械で死刑執行するとなれば、なおさらです。それに悲しいかな、あなたにはこの裁判は一般の人に公開されない秘密裁判と映るでしょうし、処刑に使うのはこんなおんぼろの機械ときている。――そうして、今、処刑を目の当たりにすれば、誰だって異常だと思う――と司令官は考えたに違いありません。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:13:30 [URL]

 ある朝、グレゴール・ザムザが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一匹の巨大な毒虫に変ってしまっているのに気づいた。彼は甲殻のように固い背中を下にして横たわり、頭を少し上げると、何本もの弓形のすじにわかれてこんもりと盛り上がっている自分の茶色の腹が見えた。腹の盛り上がりの上には、かけぶとんがすっかりずり落ちそうになって、まだやっともちこたえていた。ふだんの大きさに比べると情けないくらいかぼそいたくさんの足が自分の眼の前にしょんぼりと光っていた。
「おれはどうしたのだろう?」と、彼は思った。夢ではなかった。自分の部屋、少し小さすぎるがまともな部屋が、よく知っている四つの壁のあいだにあった。テーブルの上には布地の見本が包みをといて拡げられていたが――ザムザは旅廻りのセールスマンだった――、そのテーブルの上方の壁には写真がかかっている。それは彼がついさきごろあるグラフ雑誌から切り取り、きれいな金ぶちの額に入れたものだった。写っているのは一人の婦人で、毛皮の帽子と毛皮のえり巻とをつけ、身体をきちんと起こし、肘まですっぽり隠れてしまう重そうな毛皮のマフを、見る者のほうに向ってかかげていた。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:12:05 [URL]

 それから父は声を高めた。
「これでお前にも、お前のほかに何があるのかわかったろう。これまではお前は自分のことしか知らなかったのだ! お前はほんとうは無邪気な子どもだったが、それよりも正体は悪魔のような人間だったのだ!――だから、わしのいうことを聞け。わしは今、お前に溺死するように宣告する!」
 ゲオルクは部屋から追い出されるように感じた。彼の背後で父がベッドの上にばたりと倒れる音が、走り去る彼の耳に聞こえつづけていた。階段をまるで斜面をすべるようにかけ下りていったが、部屋を夜の支度のために片づけようとして階段を上がってくる女中にぶつかった。
「まあ、なんていうことを!」と、女中は叫び、エプロンで顔を隠した。しかし、彼はもう走り去っていた。門から飛び出し、線路を越えて河のほうへひきよせられていった。まるで飢えた人間が食物をしっかとつかむように、彼は橋の欄干をしっかとにぎっていた。彼はひらりと身をひるがえした。彼はすぐれた体操選手で、少年時代には両親の自慢の種になっていた。だんだん力が抜けていく手でまだ欄干をしっかりにぎって、欄干の鉄棒のあいだからバスをうかがっていた。バスは彼が落ちる物音を容易に消してくれるだろう。それから低い声でいった。
「お父さん、お母さん、ぼくはあなたがたを愛していたんですよ」そして、手を離して落ちていった。
 その瞬間に、橋の上をほんとうに限りない車の列が通り過ぎていった。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:11:39 [URL]

「万倍もでしょうよ!」と、ゲオルクは父を嘲けるためにいった。しかし、まだ口のなかにあるうちにその言葉はひどく真剣な響きをおびた。
「何年も前から、お前がこの疑問をたずさえてやってくるのを、わしはじっと待ち構えていたのだ! わしが何かほかのことに心をわずらわしていたとでも思うのか? わしが新聞を読んでいるとでも思っているのか? それ、見てみろ!」そういって、ゲオルクに新聞を投げてよこした。父はその新聞をどうやってかベッドのなかにまでもち運んでいたのだった。古新聞で、ゲオルクが全然知らない社名のものだった。
「お前は、一人前になるまでになんて長いあいだぐずぐずしていたんだろう! お母さんは死ぬことになって、よろこびの日を味わうことができなかった。お前の友だちはロシアで身を滅ぼし、三年も前にすっかり零落し果ててしまった。そしてこのわしは――わしがどういう有様かは、お前にも見えるはずだ。そのために目があるはずだ!」
「お父さんはぼくのすきを狙っていたんですね!」と、ゲオルクは叫んだ。
 同情をこめたように父はつぶやいた。
「それをお前はおそらくもっと前に言いたかったんだろう。でも今ではもうどうにも遅いよ」
 
1 Ryou 2013-09-30 11:11:16 [URL]

「お前の婚約者にしがみついていればいい。さあ、わしに立ち向ってみろ! わしはあの女をお前のそばから払いのけてやるぞ。どうやって払いのけるのか、お前にはわかるまい!」
 ゲオルクは、そんなことは信じないというように、しかめ面をした。父は自分のいうことがほんとうだと誓うように、ゲオルクがいる部屋の隅のほうにうなずいてみせた。
「きょうも、お前がやってきて、お前の友だちに婚約のことを書いてやったものだろうかと聞いたとき、わしは愉快だったよ。あの男はなんでも知っているんだ、ばかめ、なんでも知っているんだぞ! お前がわしから筆記具を取り上げることを忘れたものだから、わしがあの男に手紙を書いてやったんだ。だからお前の友だちは何年も前からこっちへこないのだ。お前自身よりあの男のほうがなんでも百倍もよく知っているんだ。お前の手紙は読まないで左手のなかでくちゃくちゃにしてしまい、わしの手紙のほうは右手にもって読むために目の前に拡げるというくらいだ!」
 父は激したあまり腕を頭上で振った。「あの男はなんでも千倍もよく知っているんだぞ!」と、彼は叫んだ。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:10:53 [URL]

「そのままそこにいるがいい。わしはお前なんかいらないさ! お前にはまだここまでやってくる力があると、お前は思っているんだ。それだのにお前はよってもこない。そうしたいと思うからだ。思いちがいしないでくれよ! わしはまだまだお前よりずっと強いんだぞ。だが、おそらくおれのほうがお前に譲歩すべきだったのかもしれない。ところがお母さんが自分の力をわしに与えてくれたのだ。お前の友だちとおれは心から結ばれているし、お前の顧客の名前はこのポケットのなかに入っているんだぞ!」
「シャツにさえポケットをつけている」と、ゲオルクは自分に言い聞かせた。それを言いふらしたら、おやじを世間に顔向けできぬようにしてやることができるんだ、と彼は思った。そう思ったのも、ほんの一瞬だった。というのは、彼はあとからあとからなんでも忘れてしまうのだった。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:10:25 [URL]

「そうだ、もちろんわしは喜劇を演じたのさ! 喜劇! いい言葉だ! ほかにどんな慰めが、わしという年老いた男やもめの父親にあるだろうか? いってくれ――お前が答える瞬間だけはお前はまだわしの生きている息子というわけだ――、奥の部屋に閉じこめられ、不実な使用人どもに追い払われ、骨まで老いぼれたこのおれに、何が残されているというのだ? 息子のほうは歓声を上げながら世のなかを渡り、わしがこれまでに仕上げた店をやめてしまい、面白がって笑いこけ、紳士ぶった無口な顔つきをして父親から逃げ去ってしまうというのだ! わしがお前を愛さなかったと思うのか、お前の実の父親であるこのわしが」
「今度はおやじは身体を前にかがめてしまうだろう」と、ゲオルクは思った。「もしおやじが倒れ、くだけてしまったら!」この言葉が彼の頭のなかをかすめ過ぎた。
 父は身体を前にかがめたが、倒れはしなかった。ゲオルクは父が期待したように近づかなかったので、父はまた身体を起こした。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:07:22 [URL]

「わしをよく見ろ!」と、父は叫んだ。ゲオルクは、ほとんど呆然としたまま、あらゆるものをつかむためベッドへ走っていこうとした。だが、途中で足がとまってしまった。
「あのいやらしい娘がスカートを上げたからだ」と父は、ひゅうひゅう音がもれる声でしゃべり始めた。「あいつがスカートをこうやって上げたからだ」そして、その様子をやって見せようとして、下着をたくし上げたので、父の太股には戦争のときに受けた傷あとが見えた。
「あいつがスカートをこうやって、こうやって上げたからだ。それでお前はあいつに引きよせられてしまったのだ。あの女と水入らずで楽しむために、お前はお母さんの思い出を傷つけ、友だちを裏切り、父親を身動きできぬようにベッドへ押しこんだのだ。だが、わしが動けるか、動けないか、さあ、どうだ」
 父は完全に自由に立ち、脚をばたばたさせた。自分の目が高いことを誇って、顔を輝かせていた。
 
1 Ryou 2013-09-30 11:06:35 [URL]

だからお前はあの男も長年だましてきたのだ。そのほかにどんな理由がある? わしが彼のために泣いたことはないとでも、お前は思うのか? だからお前は自分の事務室に閉じこもったりするのだ。だれも入ってはいけない、社長は仕事中、というわけだ。――それもただ、お前がロシア宛ての偽手紙を書くことができるためなのだ。だが、ありがたいことに、だれも息子の量見を見抜きなさいなどとは父親に向って言いはしない。今ではお前は、わしを押えつけたと思っている。完全に押えつけたので、父親を尻の下にしくことができるし、父親は動けない、と思っている。それでお前さんは結婚する決心をしたのだ!」
 ゲオルクは父の恐ろしい姿を見上げた。父が突然よく知っているといったペテルスブルクの友人のことが、今までにないほど彼の心を打った。彼はその友人が広いロシアで痛手を受けている様子を思い浮かべた。掠奪された空っぽの店の戸口に立っているのを見た。商品棚の残骸のあいだ、めちゃめちゃにされた品物のあいだ、垂れ下がったガス燈の腕木のあいだに、友人はまだたたずんでいる。なんだってそんなに遠くまで去っていかなければならなかったのだろう!
 
1 Ryou 2013-09-30 11:05:10 [URL]

「ねえ、もうあの友人のことを思い出したでしょう?」と、ゲオルクはきき、父に向って元気づけるようにうなずいて見せた。
「よくふとんがかかっているかね?」と、父はきいた。両脚に十分かかっているかどうか、自分では見ることができないようであった。
「ベッドに入ったら、もうよい気分でしょう?」と、ゲオルクは言い、父にかかっているふとんをなおしてやった。
「うまくかかっているかね?」父はもう一度きいて、返事に特別気をつかっているようであった。
「静かになさい、うまくかかっていますよ」
「うそだ!」と、自分の問いに対する返事が終わるか終わらないうちに、父は叫び、力いっぱいふとんをはねのけたので、ふとんは一瞬飛びながらぱっと拡がった。父はベッドの上にまっすぐに立った。ただ片手だけは軽く天井にあてていた。「お前はわしにふとんをかけようとした。いいか、そんなことはわしにはわかっているんだぞ。だが、わしはまだふとんなんかかけてもらっていないぞ。これがわしのぎりぎりの力だとしても、お前なんか相手には十分だ。お前には十分すぎるくらいだ。お前の友だちのことはよく知っている。あの男はわしの心にかなった息子といえるくらいだ。
 
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