野獣死すべし(1980年)
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1 @kira 2013-02-08 22:00:00 [携帯]

の画像を貼りましょう。
52 @kira 2013-02-23 11:01:51 [画像] [携帯]

シーン7
■[住宅街(深夜)]
ドシャ降り。
停車したタクシーから岡田が降り、狭い路地に入ってゆく。
いくつかの路地を曲がりながら、何度も背後を警戒する。
背後には、篠つく雨。
空地を横切る時、クルッと振り向いた。
目の前に、―伊達がいる。ズブ濡れの顔を伏せたまま。
岡田『・・・・・・やはりいたのか。透明人間かと思ったよ』
伊達の眼が岡田を射る。カーッと吊りあがる。
岡田『(ギクッとするが)私にパクられたことでもあるのかい』
伊達、短い鉄の棒を岡田に打ちおろす。
サッと岡田が避けて、伊達にカウンターを見舞う。さらに殴る。
ひるまず伊達が襲いかかるところを岡田が組みついて、膝で伊達の腹を突き上げる。
ガクッと崩折れる伊達。片手で岡田を抱いたまま仰向けに倒れる。
押し倒す格好の岡田。その顔が眼を剥いて硬直した。
重なって倒れたままの2人。
叩きつける雨。
伊達、岡田を押し返す。岡田の腹にめりこんだナイフ。
岡田が倒れ掛かった瞬間、伊達のフラッシュナイフが下から突き上げたのだ。
絶命した岡田の拳銃を奪う、伊達。

53 @kira 2013-02-23 11:05:33 [画像] [携帯]

シーン8
■[賭場]
賭場のテラ銭を数えている黒岩、峰原、奥津。
バタン!とドアが開いて、伊達が躍りこんでくる。
至近の黒岩を撃つ。射殺。
峰原に走り寄り、撃つ。射殺。
その間に奥津が引き抜いた拳銃で撃ってくる。伊達も奥津を撃つ。2人の銃弾は当らない。お互い5メートルの間隔でも、逆上していれば当るはずがない。
僅かに伊達が冷静になった。奥津の次の銃弾を避け、一歩踏み込み、撃つ。
ふっ飛ぶ、奥津。
伊達、絶命した3人から各々の銃をもぎとり、ポケットにおさめ、テラ銭(3千万円くらい)を、レインコートの裏に縫いつけた袋に押しこむ。

54 @kira 2013-02-23 11:09:47 [画像] [携帯]

シーン9
■[一本の長い道]
雨上がり―。 朝の霞の中から、まるでスローモーションのように伊達が現われる。
濡れたようなその眼は陶然としている。
前方の超高層ビル群から、一条、朝陽がもれる。そして、大都会の陽の出。
―野獣がシルエットになった。
 
メイン・タイトル。
 
シーン10
■[ハレイションする太陽]
神々しい輝きを喪った形ばかりの太陽から、キャメラは空撮で大都会を俯瞰し、
徐々に、4車線の環状道路に面した高層マンションへと近づく。 車の喧噪―。
スタッフ・タイトルが流れる。

55 @kira 2013-02-23 11:16:09 [画像] [携帯]

シーン11
■[マンションの一室]
入居前の約20畳ほどの細長いリビング。
内装屋の立花と神崎による防音工事。
立花がベランダ脇の窓に3重の防音ガラス、神埼がドアに録音室用防音扉を取り付けている。
立花『こんだけ音をブッちぎって、この部屋何に使うんだろうな』
運び込まれている、夥しい書物の山。
神崎『学者みたいだぜ。よっぽど神経質なんだろ』
立花『ピストル撃っても聞こえねェな、これじゃ』
その時、“失礼します”と声がして電気店の作業着をつけた男が2人、畳大ほどもあるスピーカーを運び込んでくる。
神崎と立花、“なるほど”と顔を見合わせる。
夜。細長い部屋の端と端に巨大なスピーカーが設置され、真ン中にプレーヤー、デッキ、多量のレコード、
その隙間を埋めるように本棚をインテリアしてゆく伊達。
窓際にマホガニーの机、英文ライター。壁に絵が一枚。無用の飾りは一切ない。
洗面室に、バスタオル、石けん、歯ブラシなど生活必需品をセットしてゆく伊達。
小物の1つ1つまで、神経質な一面がにじみでている。
防音マットの上で。
伊達がさまざまなスイッチを1ヵ所に集めた、集中コントロールボックスを手作りしている。
細かい部品と配線コードを、これも手作りの設計図と照合しながら的確に組込んでゆく。
黙々と熱中する。完成したボックスを机の脇に取り付ける。
窓の外に広がる、街の灯の海―。
伊達、ボックスのスイッチを1つ押す。
スルスルとブラインドがおりてくる。
次のスイッチ。
調光装置が働いて、照明が徐々におちてくる。
次のスイッチ。
プレーヤーが始動して、レコード針が静かに盤におりてゆく。
巨大なスピーカー。―いきなり耳をつんざくばかりの交響楽が溢れ出る。
画面にスッと入ってくる伊達。
腰をためて、腕を伸ばす。その手に拳銃。

56 @kira 2013-02-23 11:23:25 [画像] [携帯]

キャスト・タイトルが流れる。
奪った拳銃の羅列(レイアウト)。(コルト45、コルトパイソン、など)
きれいに分解された拳銃もある。
スピーカーは交響楽の繊細な楽章に変わる。
座り込んだ伊達の脇に空気清浄機がある。
ひと呼吸ひと呼吸、生命のエキスを呑みこむようにゆっくり息をする。
やがて指をあてて瞼を閉じる。
ピアノの調べがテンポアップする。
伊達の指が自然に躍り始め、膝を叩く。
伊達の指が英文タイプを機関銃のように打ちまくる。
打ち終わる。タイプした用紙と日本語の原稿を紙封筒に入れる。
ボックスのスイッチを押して、ブラインドを開ける。
次いでラジオのスイッチ。
大都会の朝―。倦み疲れた、どんよりした朝である。
保温ポットのコーヒーをカップに注ぎ、ベランダに出る。
タイトルが終わる。
流れているラジオの音。
時報が鳴る。
アナウンス『お早うございます。』
伊達『…(呟く)お早う。』
アナウンス『午前6時のニュースです。1週間前、警視庁捜査一課の岡田警部補を殺害し、奪った拳銃で秘密賭博場の暴力団員3名を射殺し逃走中の犯人は、警察官延べ一万人を動員しての旅館、ホテルなど約一万ヶ所に及ぶ検索・検問にもかかわらず、依然として手がかりがつかめておりません。犯人は暴力団員からも数丁の拳銃を強奪しており、2次、3次犯罪を起こすことも強く懸念されるため、捜査当局は週明けの今日から、さらに…』

57 @kira 2013-02-23 11:27:22 [画像] [携帯]

シーン12
■出版社(神田あたり)
午後の活気ある編集部局。
その一隅で、編集者の乃木が伊達が持参した英タイプの原稿を見ている。
乃木『オーケイ、オーケイ。相変わらずの名訳だよ。締め切りも正確だしね。支払い、経理のほうで出てるから。』
伊達『…いつも、どうも。』
乃木、別の日本語の原稿を差し出す。
乃木『これ、旅行会社のアメリカ向けガイドブックだけど、5日くらいでできるかな。』
伊達、受け取ってパラパラとめくる。頷く。
日本語原稿の表紙―
 《日本の旅行シリーズ〈東京〉世界で最も安全な都市》
乃木の声が被る。
乃木『ところでさ、伊達ちゃん…』

58 @kira 2013-02-23 11:34:45 [画像] [携帯]

シーン13
■[日本橋界隈]
伊達がひっそりと歩いてくる。
乃木の声『・・・・・・近い内ゼミん時のメンバー集めて一杯やるんだ。こういうの伊達ちゃん嫌いだろうけど、俺たちも来年三十路だしさ。たまにはどう、出てみない?』
ルネサンス風建築の日本銀行、格式を誇る三越本店、そして三井銀行の脇を通る。
《日本橋》のオウレートのある高架下を伊達がくる。
橋の際の、派出所にさりげなく視線を泳がせる。少し歩くと東急デパート。
四ッ角の先が高島屋。この辺りは地下鉄出入り口、銀行の本・支店、証券会社など金融関連会社が密集している。
 
■シーン14
[丸善]
3Fの洋書売場で注文していた洋書数冊を受け取る伊達。
2Fのタイプライターコーナーで、除去液やタイプ用紙を買いこむ伊達。
 
シーン15
■[前の通り]
少壮の学究派にみえる伊達、丸善を出てすぐ前の道路を横断する。
高島屋。その脇の道を行くと、首都高速。
すぐ近くに入口ランプもある。そして、
《東洋銀行日本橋支店》
 
シーン16
■[東洋銀行・日本橋支店]
L字形のカウンター。店員は20名余。
伊達、普通預金の入金票とキャッシュカード申込票に記入して(氏名は偽名)、5万円を印鑑と共に差し出す。
女の係員『いらっしゃいませ。口座をお開きになるんですね』
伊達、頷いて、係員の胸の名札を確かめる。“石島”と読める。
石島『キャッシュカードは1枚でよろしいんですね』
伊達『・・・・・・ええ』
石島『承知しました。暫くお待ち下さいませ』
伊達、さりげなく店内を見回す。
奥の天井の2ヶ所にVTRキャメラ。隅にはスリガラスや観葉植物で遮られた電話ボックスがある。
2つの出入り口には、銀行では珍しいガードマン(私服)がそれぞれ1名ずつ立哨している。
午後3時。2人のガードマンが、それぞれのシャッター・ボタンを押す。
下りてゆく、シャッター。

59 @kira 2013-02-23 14:29:21 [画像] [携帯]

シーン17
■[同・通用門近くの廊下]
店頭で立哨していた2人のガードマンがくる。
そして地下から3人のガードマン(制服)が登って来て、“お疲れさん”の言葉を交わし、警備員詰所に入る。
 
シーン18
■[同・警備員詰所]
入ってきた5人のガードマンが、一斉に立ち停まった。
伊達がひっそりと坐っている。
伊達『勝手にお邪魔してすみません』
チーフ格の高橋が歩み寄る。
高橋『お宅、なに?』
伊達『私、雇って貰えませんかね。失業中なんですよ』
高橋『ウチの会社に?』
伊達『ええ。明日でも本社の方へ伺いますが住所とか応募の方法、知りたいんです』
他のガードマン達は、呆れた顔で日報に記入したり、本社に業務報告する。
高橋『それは構わないけど、なんでウチの会社を?』
伊達『銀行にガードマンを派遣できる警備会社なんてそうザラにないでしょ。その信用に魅力を感じるんです』
高橋『(まんざらでもない)ま、それなりにシンドイけどね。危険なことも多いし』
伊達『なお、ケッコーですよ』
高橋『ほう。というと?』
伊達『・・・・・・私、人を殺したいんですよ』
高橋『え?』
ガードマン達が、伊達を見る。
伊達『この日本で人を殺そうと思ったら警察官になるか犯罪者になるしかありません。犯罪者はワリに合わないし、警察官には今さらなれません。それでガードマンになれば、万一賊に襲われた時、正当防衛で人を殺せる確率が高くなります。特に銀行の警備なら、今日明日でもそのチャンスがあるでしょ。・・・・・・たまりませんよ』
ニコリともせず喋れば気味が悪い。
ア然と聞いていたガードマン達。
高橋、出口をゆっくり指差す。
伊達『・・・・・・駄目、ですか』
一礼して出て行く。見送る高橋ら、とんだ闖入者に、顔を見合わせて苦笑う。
 
シーン19
■[道]
丸善で買った品物を抱えてひっそり歩いてくる伊達。
胸ポケットから小型キャメラをとり出し、袋に入れる。
 
シーン20
■[マンション・暗室]
焼付けた印画紙が徐々に像を結ぶ。
東洋銀行日本橋支店の『見取図』や『警備箇所』を示した図面を撮影したもの。
覗きこむ、伊達。

60 @kira 2013-02-23 14:33:18 [画像] [携帯]

シーン21
■[コンサート会場]
開演前。
ほぼ満席の客席で、パンフレットを読んでいる華田令子。クセのない美貌にほどよい知性をしのばせる女。
隣りの席が空いている。令子、さりげなく辺りを、見回す。
と―、通路に伊達が現われる。
令子『・・・・・・』
何かを期待して、顔を伏せる。
通路の伊達、チケットを見て、自分の席を確かめる。唯ひとつの空席の隣りに令子。
伊達『・・・・・・』
伊達、歩み寄り、坐る。
令子、初めて気づいたかの如く、会釈する。伊達も会釈した。
開演のチャイムが鳴り、暗くなる。
指揮者が登場する。拍手。
演奏開始。深遠なクラシックの世界。
聴き入る伊達、令子。伊達の指が、膝の上で無意識に躍っている。
見る、令子。

61 @kira 2013-02-23 14:41:33 [画像] [携帯]

シーン22
[同・ロビー]
休憩時間。
客席から出て来た伊達、公演予告ポスターに見入る。隣に立つ令子。
令子、言葉をかけようかどうしようか迷っている。
無表情にポスターを見ている伊達。
令子『あの、・・・・・・よくお会いしますわね』
伊達『・・・・・・狭くなったんじゃないですか、東京が』
令子『(微笑)ピアノ、なさるんですか』
伊達『・・・・・・?』
令子、微笑して、指をうつ仕種。
伊達『・・・・・・いえ』
令子『タイプうってらっしゃるんでしょ。英文』
伊達『・・・・・・(頷く)』
令子『私も以前打ってましたから。今は秘書をしてますけど』
伊達『・・・・・・そうですか』
素気ない。
令子『最初におみかけしたのは5月でしたかしら、確か、パレンボイムのパリ管の時』
伊達『・・・・・・かもしれませんね』
令子『あの時は、ーラーの第五がよかったわ』
伊達『マーラーの第五なら、レコードだけどカラヤンのがよかった』
令子『(嬉しく)私も聴きました。よかったわ』
伊達『フィナーレのフーガが特に良かったでしょ』
令子『ええ』
伊達『ひと晩に3回も聴き直したんですよ。雨が降ってましてね。いいレコードに会う日は、いつも雨が降っている』
開演の予告チャイムが流れる、客席へ戻る人々。
令子『いつも、おひとりなんですね』
伊達『静かですからね、ひとりの方が』
ロビーは2人だけになった。
伊達『じゃ』
と、去りかける。
令子『あの、2部はご覧になりませんの』
伊達『・・・・・・何ていうんですか、演奏会に来るっていうのは演奏が終ったあとの静寂、あの瞬間を味わうために来るんじゃないですか。どんな美しい音も、沈黙には結局勝てない、どんなに眩しい光でも、一瞬の闇には勝てないようにね』
令子『今日は演奏が終った途端に拍手する人がかなりいますものね』
伊達『そういう方たちとはつきあえない。・・・・・・あなたは別ですが』
ホッとして微笑する、令子。
伊達、客席へのドアを開けてやる。
吸いこまれる令子。
伊達、ひっそりと出口へ歩いてゆく。
見送る、令子。



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