野獣死すべし(1980年)
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1 @kira 2013-02-08 22:00:00 [携帯]
の画像を貼りましょう。
72 @kira 2013-02-23 16:06:00 [画像] [携帯]
真田『どこの通信社にいたんだ』
伊達『・・・・・・忘れた』
真田『今はバイトやってるって』
伊達『クビになった』
真田『いつ』
伊達『・・・・・・昔』
真田『昨日でも昔だもんな』
伊達の近くに坐り、見つめる。
伊達、初めて真田を見た。
2人の視線・・・・・・。
真田、一瞬だけおどけて、伊達のグラスにボトルを注ぐ。
黙々と呑んでいる伊達と真田。
真田『・・・・・・女がさ』
伊達『・・・・・・あ?』
真田『女がアメリカ行きたいって言うんだよな。昔フラメンコ踊ってて、今じゃくたびれちまって、日本じゃ通用しねェんだ。で、俺とさ、アメリカの片田舎をジャパニーズフラメンコつってさ、ドサやろうって言うのよ、半年前、突然そう言うわけ』
伊達『お宅がギター弾いて?』
真田『わかりが早ェな』
伊達『指でわかる。いい指だ』
真田、ほんの少しフラメンコギターをつまびく仕種。
真田『但し先立つものが(股間を差して)これしかないんでね。あのレストランに勤めたわけよ。女込みでロスの支店に行かせてくれる条件でな。アッチ行ったらトンズラするつもりだったんだが・・・・・・あのザマだ。ナンボになってもカッとするとワケわかんなくなるんだ』
伊達『・・・・・・』
真田『女はこの店預かってる。毎月赤字だけどな』
伊達『・・・・・・さっき店にいたのか』
真田『いや。・・・・・・バーテンの話だと、ヤンキーの将校とドライブ行ったんだそうだ。この分じゃ徹夜のドライブだ』
伊達、肩をすくめる。
真田『こんなこと初めてだ』
真田、忘れかけていた怒りがこみあげグラスを握りしめる。
伊達『女に情を移すほど間抜けには見えないがね』
真田、いきなりグラスをカウンターの奥に投げる。
ガチャン!と砕け散るガラス類。
73 @kira 2013-02-23 16:10:15 [携帯]
シーン45
[同・外の通り]
夜が白みはじめている。外車が着いて、真田の情婦・雪絵が下りてくる。
雪絵『バーイ』
にこやかに米軍将校に投げキスして、店に入る。
シーン46
[バーの中]
入ってきた雪絵、カウンターのミネラルウォーターをラッパ呑みして、大きく肩で息をした。
一転して、生活者の翳がにじむ。2階へヨロヨロと登ってゆく。
隅で、―真田と伊達が音もなく見ていた。
真田、スッと立つ。
真田『始末してくる』
2階へ向かう。
伊達、ゆっくり立上がり、ドアから出て行く。
シーン47
[横須賀港]
端っこの岸壁に坐って、朝刊を読んでいる伊達。
《警視庁警部補刺殺 秘密賭博場襲撃の犯人 依然手がかりつかめず 次の犯行防止に必死の大捜査網》
等々の記事。
遠くから、真田がやってくる。
伊達、新聞を1枚ずつ海に放る。
真田が来た。間のもてない素振り。
真田『コーヒーでも呑み行くか』
伊達『・・・・・・どうして始末しなかった』
真田『(ギクッとするが)・・・・・・目を見ちまったんだ。首絞める時』
伊達『じゃないだろ。女が何か言ったんだ』
真田『(苦笑して、頷く)・・・・・・言ったよ。こう言ったんだ。許してダーリン。・・・・・・ダーリン、だぜ』
2人、低い声で笑い合う。
―波間に漂う新聞紙。『大捜査網』の見出しが見え隠れする。真田の声が被る。
真田の声『スカッと決められねェんだ。いつだってそうだ』
海上自衛隊の軍艦の脇を歩く、2人。
20歳前後の青年たちが、憧れの眼で軍艦を見上げている。
真田『(青年たちを見て)あいつら、ついてるよ。日本にも軍隊ができりゃ、真っ先に応召する資格がある。タダで外国行って、ブタ共ブチ殺してそれで恩給がつく。俺とあんたはもう駄目だな。まったく何もない時に、20代を越しちまったよな、俺ら』
その真田をギラッと見る、伊達。
伊達『(ボソッと)世界が狭いんじゃないかね』
真田『・・・・・・?』
74 @kira 2013-02-23 16:14:10 [画像] [携帯]
シーン48
■[真昼の特飲街]
表通りから少し路地を入った所に、忘れられたような一画がある。
伊達と真田の所へ、銃器ブローカーの遠藤が来る。
遠藤、職業的なカンで2人を見比べる。
伊達、さりげなく札束の入った封筒を見せる。
封筒を確かめる遠藤。アタッシュケースを差出す。
遠藤『注文通りだ。コルト45のサイレンサー、実包15ケース、コルトパイソンの実包5ケース、M16ライフルと専用サイレンサー、実包10ケース』
アタッシュケースと現金封筒の交換。
遠藤『じゃな』と、去りかける。
伊達『早いんじゃないか』
?と振り向く遠藤。
伊達『サイレンサーによって発射音や貫通度がどれくらい変わるのか、試射する必要がある』
遠藤『そんなことは勝手にやれ。どこの組の者か知らんが、プロだろうが』
嘲笑して、去る。
伊達―。
見守る、真田。
シーン49
■[表通り]
大勢の歩行者の中を、遠藤が歩く。
突如、その身体がガクッと停止し、フワーッと舞うように崩折れる。
その近くを伊達が無表情に通り過ぎる。
コートのポケットに手を突っ込んだまま。
昏倒した遠藤の胸から血が噴出している。
道往く人が、遠回りに囲む。その中に、真田。動くに動けない。硬直しているのだ。
その顔、静止したまま・・・・・・。
伊達の声が被る。
伊達の声『2つのデパート、それに大型店舗の午後2時までの売上金は、2時半までに―』
シーン50
■[東洋銀行・日本橋支店]
真田が入って来る。
伊達のキャッシュカードで現金を引出す。
さりげなく下見をしているのだ。
伊達の声が近づく。
伊達の声『―地下の金庫室に運ばれる。そこで出納係が手分けして金額をチェックする。合わせて4億はカタイが、万札は約2億だろう。それがこっちの獲り分だ』
真田の声『バラ札なら安心だな』
伊達の声『これを数え終わって束にするまで30分かかる。ここが狙い目だ』
真田の声『やるのは、3時、閉店間際か。いつやる?』
伊達の声『金曜。平日の3時で、車が最も混むのは金曜だ』
75 @kira 2013-02-23 16:17:24 [画像] [携帯]
シ−ン51
[銀行を見下ろすビルの屋上]
真田、伊達が詳細にメモした犯行計画書を見ている。
真田『万一非常ベルを押された時、パトがくるまで何分かかる?』
伊達『1分30秒。金曜の同じ時間帯に実際に試してみた』
考え込む、真田。見守る、伊達。
真田『どっちみち、俺は2人殺さなきゃならんわけだ』
伊達『最低2人だ』
真田『ひとりも殺さずにうまくやる方法はないのか』
伊達『掠奪するのに一滴の血も流さないというのは幻想だ。その幻想にふりまわされて今まで何人の馬鹿が失敗したと思う』
真田『要するに俺たちはコンバットに行くわけだ。ゼニのために』
伊達『金で買えないものにロクなものはない』
真田、決心して手を差出す。伊達、握手するかわりに、指で引金を引く仕種。
伊達『早速覚えてもらう。伊豆の山に貸別荘を借りた』
真田『いつ行く?』
伊達『明日。フラメンコの女もつれてこい』
真田『・・・・・・冗談』
伊達『カムフラージュするのにちょうどいい』
76 @kira 2013-02-23 16:23:40 [画像] [携帯]
シーン52
[日比谷公会堂・表(夜)]
雨が降っている。
終演後の客が出てきて、戸惑っている。
その中に、伊達、令子。
伊達、黙礼してコートの襟を立てて出て行く。
令子、慌ててバッグから折り畳み傘を出し、追う。
追いつき、伊達に傘をさしのべる。
令子『あの・・・・・・地下鉄まで』
黙って歩く、2人。
横断歩道が赤信号。立停まる、2人。
令子『・・・・・・ここ2・3日、変な人に尾けられてるみたい』
―信号待ちの人混みの中に、柏木がいる。
伊達、気づいてはいるが、無表情。
令子『興信所の探偵かしら』
伊達『・・・・・・』
令子『別につきあってる人もいないのに』
伊達、不意に令子の傘をとり、片手で令子の肩を抱く。
令子『・・・・・・!』
この時を待っていた。息がつまるほど嬉しい。
信号が青で、2人、寄り添って歩き出す。
渡りきったところで、伊達がタクシーを停める。
令子を先に乗せ、伊達も乗り込む。
尾けてきた柏木が、後続のタクシーに乗り込む。
シーン53
[走るタクシー・車内]
後部座席で寄り添う、伊達と令子。
伊達、ルームミラーで追ってくるタクシーを見ている。
令子、バッグから1枚の演奏会チケットを差出す。
令子『これ、ウチの社長が行けなくなって、2枚もらったんです。よかったら』
伊達、会釈して無雑作にしまいこむ。
令子、ある期待に顔が上気してくる。
伊達『(運転手に)そこの角で』
四ツ角のアパートの前に停まる。
伊達、運転手に万札をつかませる。
伊達『じゃ、ここで。おやすみ』
サッサと出て行き、アパートに向かう。
令子『・・・・・・(呆気に)』
77 @kira 2013-02-23 16:27:47 [画像] [携帯]
シーン54
[アパート前]
令子の乗ったタクシーが発進した直後に、後続のタクシーが停車する。柏木が下りて、アパートに駆け込む。
柏木『―!』
入口の暗い部分に潜むように、伊達が立っていた。
柏木『(苦笑)ホテルにでも連れ込むんじゃないかと思ったよ』
伊達『電車に乗ると、また吐きますんでね』
柏木『俺にマークされて、気分が悪くなったんじゃないのか』
伊達『(答えず)ここの5号室ですが、案内しますか』
柏木『いや、遠慮しとこう』
郵便受けの【5号・伊達邦彦】の表札を確かめて、去る。
シーン55
[同・5号室]
伊達が入ってくる。シーンEの部屋である。
電話や古いタイプライター等、そのまま残っている。
伊達、電話の留守録音のスイッチを押す。
乃木の声『乃木だけど。どう、忙しい?翻訳2本ほどあるんだけど、都合のいい時に寄ってよ』
灯りをつける。
シーン56
[外の通り]
アパートの5号室の灯りが点いた。
柏木、見とどけて、去ってゆく。
78 @kira 2013-02-23 16:34:21 [画像] [携帯]
シーン57
[伊豆の山中]
うっ蒼とした樹木。
銃声が2発、3発鳴り響く。一斉に鳥が舞い上がる。
狩猟スタイルの真田と情婦の雪絵。猟銃で撃ちまくるが、全く当らない。
木陰で見守っている伊達。真田に目配せする。
真田『(雪絵に)別荘に帰って、メシでも作ってろ』
雪絵『(ムッとして)賄いに来たわけじゃないよ』
撃ちまくる。かなりエキセントリックな女だ。
雪絵『店のとまり木のアホウ鳥なら、1発でおとせるんだけどね』
とウインクして、山を下りてゆく。
伊達、立ち上がり、さらに奥に向かう。従いてゆく真田。
樹木に囲まれた狭い台地。
真田がサイレンサー付オートマチックを手にし、慣れぬ手つきでカートリッジを差込み、安全装置を外し、5メートルくらい先の標的を狙う。
真田『標的が近すぎるんじゃないか』
伊達、黙って真田をコナす。
撃つ、真田。
45口径の射撃の反動で手元が狂い、銃弾はあらぬ方向へ飛んでゆく。
伊達『手と身体に馴染ませるのが先だ。それから銃のクセを覚えろ』
真田、再び撃つ。
真田の射撃が標的に当るようになった。
隣では、伊達がサイレンサー付ライフルでかなり遠目の標的を撃っている。
撃ち終わる、2人。
・・・断崖の上に登り 憂ひは陸橋の下を低く歩めり。
無限に遠き空の彼方 続ける鉄路の柵の背後(うしろ)に 一つの寂しき影は漂う。
ああ汝、漂泊者!
過去より来りて未来を過ぎ
久遠(くおん)の郷愁を追ひ行くもの。
いかなれば蹌爾(そうじ)として
時計の如くに憂ひ歩むぞ。
石もて蛇を殺すごとく
一つの輪廻を断絶して
意志なき寂廖(せきりょう)を踏み切れかし。
ああ
悪魔よりも孤独にして
汝は氷霜の冬に耐えたるかな!
かつて何物をも信ずることなく
汝の信ずるところに憤怒を知れり。
かつて欲情の否定を知らず
汝の欲情する者を弾劾せり。
いかなればまた愁ひ疲れて
優しく抱かれ接吻(きす)する者の家に帰へらん。
かつて何物をも汝は愛せず
何者もまたかつて汝を愛せざるべし
ああ汝、寂寥の人
悲しき落日の坂を登りて
意志なき断崖を漂泊(さまよ)ひ行けど いずこに家郷はあらざるべし。
汝の家郷は有らざるべし!
79 @kira 2013-02-23 16:38:05 [画像] [携帯]
伊達『サマになってきたな』
真田『本番になるとどうかな、テキは動く標的だからな。・・・・・・正直チビってるよ』
伊達は、据野にめがけて、ライフルのスコープを向けている。
スコープ―ある貸別荘の前の空地で中年の男たちが揃いのトレーニングウェアで運動している。
中堅管理職の宿泊研修であろうか。
鎖につながれたドブネズミども。ライフルの引金に手をかける、伊達。
伊達『格好の標的がいるじゃないか』
真田『―あ?』
スコープ―トレーニングウェアの中年男たち。
伊達、引金を引く。カチッ。
伊達『女にはその為に来てもらった』
真田『―!』
伊達『今度こそスカッと決めるチャンスじゃないのか』
こともなげに言い、オートマチックの新しいカートリッジを差出す。
苦笑う、真田。蒼ざめている。
真田『―あ?』
80 @kira 2013-02-23 16:44:15 [画像] [携帯]
シーン58
[貸別荘(夜)]
一階の、リビングとダイニングを兼ねたフロア。
雪絵が缶詰を使って料理したスープや肉料理。
黙々と喰っている伊達、真田。
雪絵『・・・・・・どうしたの、不景気な顔して』
伊達、食事をやめて、煙草をふかす。
雪絵『やっぱし、マズイ?』
伊達『いや。素晴らしいですよ。・・・・・・最後の晩餐にふさわしい』
真田、パタッと手を停める。
雪絵『(真田に)ちょっと塩がききすぎたかね』
真田『・・・・・・砂糖のききすぎだ』
雪絵『なによ、それ』
伊達『ちょっと留守にするから』
真田をギラッと見て、出て行く。
雪絵『気をきかしたつもりかね』
真田の太股に手を当てる。
真田『・・・・・・』
雪絵『あんた、どうしたの。この前のこと、水に流してくれたんでしょ』
真田に頬をスリ寄せる。
真田『・・・・・・よしな』
雪絵『久しぶりじゃない』
真田『ヤンキーのブタの匂いがする』
と、払いのける。
雪絵『(ムッと)そっちが誘ったんじゃない。・・・・・・(急に激して)そっちが頼むから来てやったんじゃないか!料理も作ってやったんじゃないか!』
と、真田にむしゃぶりつく。
真田。・・・・・・迷っている。
シーン59
[墓場]
山の中腹にポツンと忘れられたような狭い墓地。
墓石に、伊達がひっそりと坐っている。カサカサと、葉郡が音をたてる。
風が出てきた。
シーン60
[貸別荘]
真田の頭を抱いている雪絵。
雪絵『ねェ、やっぱりメリケン行こうよ。絶対金になるって。ウチら、まだ捨てたもんじゃないって』
真田『・・・・・・』
雪絵、真田を離れ、壁に凭れてフラメンコのステップを踏む。手を打ち鳴らす。
チェアで項垂れて坐ったままの真田。
その手にいつの間にか、オートマチック、無意識にメタリックの感触を腕にこすりつけている。
シーン61
[墓場]
伊達が地面を見下ろしている。
墓穴が掘られている。
ポッカリ開いた地面に、ポツリポツリ雨が降り始めた。
81 @kira 2013-02-23 16:47:34 [携帯]
シーン62
[貸別荘]
雪絵が狂ったようにフラメンコを舞う。
真田、ゆっくり顔を上げて雪絵を見る。
突如、フラメンコギターの奏べがセリ上がる。
雪絵の顔にしたたる汗。からみつく黒髪。
妖しく燃えるような眼で真田を誘う。
真田の眼が濁ってゆく。濁ってゆく。
パッとオートマチックを雪絵に向けた。
雪絵『―!』
氷りついた。真田、撃つ。
雪絵の白いワンピースが鮮血に染まり、フワーッと舞う。
鮮血を見て興奮した真田、さらに撃つ、撃つ。
フラメンコギターがパタッと停止して―。

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