野獣死すべし(1980年)
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1 @kira 2013-02-08 22:00:00 [携帯]

の画像を貼りましょう。
62 @kira 2013-02-23 14:48:19 [画像] [携帯]

シーン23
■[夜の街]
六本木あたりのネオン街裏通り。
ハーフや外人の高級娼婦が佇んでいる。
伊達がひっそりと歩いてくる。
ハーフの女(エリカ)が微笑む。
 
シーン24
■[ホテル]
仰臥した伊達に、エリカが騎乗し、ゆるやかに交わっている。 無表情に天井を見ている伊達。ギリギリまで無駄なエネルギーは費わない。
エリカ、次第に腰を激しく使い、大袈裟に喘ぎ始める。
伊達『・・・・・・芝居はしなくていい』
エリカ、苦笑して髪をかきあげる。
エリカ『・・・・・・なんか、ロダンか、何かの彫刻としてるみたいね』
伊達、いきなり上体を起こし、エリカを抱え上げ、腰でつきあげる。
思わず昇りつめて、叫ぶエリカ。OFFで、伊達の口ずさむ詩が流れる。
 
シーン25
■[マンション]
窓外にひろがる、白昼の東京・・・・・・。
詩が流れる。
 
日は断崖の上に登り 憂ひは陸橋の下を低く歩めり
無限に遠き空の彼方
続ける鉄路の柵の背後に
一つの寂しき影は漂ふ
ああ汝、漂泊者
過去より来りて未来を過ぎ
久遠の郷愁を追ひ行くもの
いかなれば蹌爾として
時計の如くに憂ひ歩むぞ
石もて蛇を殺すごとく
一つの輪廻を断絶して
意志なき寂廖を踏み切れかし
 
―以下、略―
(萩原朔太郎「漂泊者の歌」)
窓辺のチェアに凭れて眠っている伊達。
膝には、分厚い本が開かれたまま。
机の上に、銀行の見取図などを隠し撮りした写真や、いくつかのメモがあり、窓からの微風にそよいでいる。
 
シーン26
■[銀座ジュエル]
詩はまだ流れている。低く―。
受話器をとる、店員の永友。
永友『はい。銀座ジュエルでございます』
伊達の声『お宅、出張セールスもしてますね』
永友『承っております』
伊達の声『ダイヤのリングが欲しいんですがいくつか見せてもらえませんか。百万クラスのがいい』
永友『承知しました』
伊達の声『明日、金曜の午後2時50分、東洋銀行日本橋支店で会いましょう。気に入ればその場でキャッシュを引き出しますから』
永友『畏まりました。私、永友が参ります』
伊達の声『目印に、そう、サングラスでもしてきて下さい』

63 @kira 2013-02-23 14:53:29 [画像] [携帯]

シーン27
[東洋銀行・日本橋支店]
壁時計「2時55分」。
アタッシュケースをかかえた男が落着きなく見回している。
サングラスの永友である。
伊達が入ってきて、奥の現金引出機に向かう。
キャッシュカードを挿入して待つ間、ロビーの永友とカウンターの受付係・石島を確認する。
伊達、引出した現金とカードを収め、隣の電話ボックスに入る。
スリガラスや観葉植物に隠れ、店内からは死角になっている。
ダイヤルを回す、伊達。
声『毎度ありがとうございます。東洋銀行日本橋支店でございます』
伊達『預金カウンターの石島さんを』
カウンターの石島、受話器を取る。
石島『お待たせしました。ご預金係の石島でございます』
伊達の声『今から言うことをよく聞くんだ。あんたの前の席にサングラスの男がいるだろう。その男は胸ポケットにアメリカ製のピストル2丁、アタッシュケースにはダイナマイトを5本詰めている』
蒼ざめる石島。永友はソワソワと落着きなく見回している。
伊達の声『騒がなければ何もしない。いいかね』
石島『・・・・・・はい』
伊達の声『我々は、金がほしい。あんたの手もとに今いくらある』
石島『2百万ちょっとです』
電話ボックス。
伊達『それでいい。あの男をカウンターに呼び出して、さりげなく渡しなさい。こう言うんだ。銀座ジュエルの永友さま、お電話です。いいね』
受話器を置いて、外に出る。
カウンター内の行員たちがサイドから見渡せる位置である。
石島『銀座ジュエルの永友さま、お電話です』
永友、ハッと立ってカウンターに向かう。
その時、石島が後方を振り返った。
石島『部長!伝票のチェックお願いします!』
直後、行員全員が微妙な変化を見せた。
石島の後方にいる男子行員(梅津)が机の下で非常通報ボタンを踏む。
見る、伊達。腕時計のストップウォッチを押す。
さらに奥の天井を仰ぐ。2ヵ所の防犯カメラが首を振り始めた。
2人のガードマンと案内係の男子行員が、永友に近寄り、ワッと組みつく。
仰天して、抵抗し、わめく永友。
店の奥からもガードマンが駆けつける。
永友は、助っ人の客などからも惨々とっちめられる。
伊達は、騒ぎを尻目に悠然と出て行く。

64 @kira 2013-02-23 14:58:21 [画像] [携帯]

シーン28
[同・外]
出てきた伊達、前の通りと近くの高速道入口ランプの交通量を観察する。
金曜の3時、一番混雑する時間である。
その渋滞をぬって、パトカーが駆けつけた。なんと4台も!
伊達、腕時計のストップウォッチを押して、歩き去る。
 
シーン29
[近くの地下鉄入口(江戸橋駅)]
を下りてゆく。
地下1階からのエスカレーターからさらに下りると右手に都営地下鉄江戸橋駅改札、左手が東西線日本橋駅改札、その脇を抜けて暫く行くと、銀座線日本橋改札がある。
3つの地下鉄路線駅が集合した地下ホールなのである。
 
シーン30
[マンション]
机の上に、ロードマップや首都交通路線図、それに盗み撮りした銀行の図面写真などを並べ犯行計画を練り、メモしている伊達。
伊達、思い出したようにラジオのスイッチを入れる。
アナウンス『・・・・・・今日の午後、日本橋支店での商談に呼び出されたもので、もちろん銀座ジュエルの永友さんは、ピストルもダイナマイトも所持していませんでした。このため警察では、永友さん個人、あるいは東洋銀行に怨みをもつもののいやがらせとみて、捜査を続けております。なお東洋銀行日本橋支店では、近くの2つのデパートをはじめ、多くの大型店舗と取引があり、騒ぎの時は、各店の売上金約4億円が銀行に運び込まれた直後だけに、緊迫するひとこまもありました。では次のニュース・・・・・・』
スイッチを切る、伊達。
自ら立案した犯行計画書に『¥400、000、000』と書込み、思案する。
モウ ヒトリ ホシイ コツコツと指を机に打つ。タイプを打つ時の、指のクセである。
その指が英文タイプライターに這い上がり、無意識にカタカタと打込む。
《I WANT ONE MORE BODY・・・・・・MAYBE》
字幕スーパー
“もう一人いる”

65 @kira 2013-02-23 15:02:32 [画像] [携帯]

シーン32
[日比谷公園]
平日の閑散とした午後。
無為の時を過ごす男が、ベンチごとにひとり、またひとり・・・・・・。
野外小音堂のアーチの下で、伊達がひっそりと見ていた。
 
シーン31
[場外馬券売場]
うたかたの夢を求めて犇めく人々。
血走った眼の男、奇妙にはしゃぎ回る男、最後の金をスッて、うずくまっている男(小林)・・・・・・。
建物の影にたたずんでいた伊達、出口に歩き出す。
表の雑踏で、柏木刑事とスレ違うが、距離が離れているため、双方気づかない。
だが柏木は、フッと立停まった。
何かを周囲に感じて見回すが、何も心当るものはない。
 
シーン33
[銃砲店(別の日)]
ガラスケースの銃器に見入っている若者が数人。
そのひとりひとりを、客を装った伊達が目の端でとらえている。紙袋を持っている。
と、―ガラスケースに被さるように見ていた男が、不意に銃を持ち、壁の鏡に向かって構える。小林。
小林『・・・・・・(ひとりごと)気にすんなよ。な。気にすんなよ。・・・・・・俺が何を言ったんだ・・・・・・え?ふざけんな、オカマ野郎!』
小林、銃を置いてプイと出て行く。
尾ける、伊達。
 
シーン34
[喫茶店]
薄暗い。アンチークな店。
客席に小林が坐る。
離れた客席に坐る伊達。
小林の客席に、仲間らしい男が坐った。
2人、特に会話を交わすこともない。その内、男が小林の股間に手を差し入れる。
2人の腰回りをコートで覆う。
―アテが外れた伊達、立上がる。
 
シーン35
[雑踏]
伊達が歩いてくる。
電話ボックスの中で、ダイヤルを回している男。柏木刑事。人混みの中でひときわ背の高い男に目を停める。
肩を落とし気味にひっそりと歩く伊達。
柏木『・・・・・・』
受話機を置き、出て行く。
が、すぐに戻って、返却口の10円玉を抜きとる。
伊達が歩く。尾ける柏木。

66 @kira 2013-02-23 15:08:07 [画像] [携帯]

シーン36
[レコード店]
クラシックレコードを選んでいる伊達。
入口脇で、柏木がさりげなく見張っている。
伊達、タイプを打つ時の指のクセで、次々にジャケットをめくっている。
その指の脇で、細いしなやかな指が同じように躍る。
?と見上げる、伊達。
令子がいる。ニッコリ微笑した。
令子『コンサート以外でお会いできるとは思いませんでしたわ』
伊達『毎日がコンサートみたいなものですよ』
令子『無粋な観客が多すぎますけど』
伊達、フッと笑った。壁の鏡で柏木をとらえて・・・・・・。とっくに気づいているのだ。
伊達『会社、この近くですか』
令子『いえ、日本橋です』
伊達『・・・・・・』
令子『外資系の会社でUSワックスっていうんですけど、社長がこのレコード聴きたいっていうものですから』
と、購入したレコード(クラシック)を見せる。
伊達『社長と趣味があうなんて素晴らしいじゃないですか』
令子『でも60すぎのおじいちゃんですから』
伊達『・・・・・・ゴッド』
令子『あなたは?』
伊達、壁の鏡で柏木をとらえて、
伊達『・・・・・・それがねェ、なかなか見当たらないんですよ、葬送行進曲』
令子『まァ』と笑う。
伊達、ベートーヴェンのレコードを1枚取り出す。
令子『雨が降るといいですね、今夜』
伊達『・・・・・・(苦笑)』
視聴室のランプが、『空室』に変わった。
伊達『じゃ』
と視聴室に向かう。
令子『あの、今度の日比谷のコンサートいらっしゃいますか』
伊達『・・・・・・多分』
令子、嬉しく微笑する。
出て行く令子を、胡散臭く見送る柏木。
振り向いて、?となる。
視聴室の入口に立った伊達が、真正面から見すえている。
柏木、仕方なく視聴室へ向かう。

67 @kira 2013-02-23 15:41:32 [画像] [携帯]

シーン37
[同・視聴室]
柏木を迎え入れて、伊達がドアを閉める。
外部の音が遮断される。
柏木『どうもこの、昔っから尾行ちゅうのがヘタクソでね、あんたのやることに干渉するつもりはなかったんだが・・・・・・。今さら言ってもしょうがないな』
レコードをセットする伊達。
柏木、思い出したように腰ポケットから警察手帳を差出す。
柏木『キマリじゃ、ここ(内ポケット)に収めとくんだが、こっから取出してサッと見せるってのはどうもね。黄門さんの印籠じゃあるまいし、それに昔、池袋の賭場に踏み込んだ時、慌てちまって定期券差しだしたことがあるんだ。それ以来、手帳出す時は、落着けない』
伊達、チェアに深々と坐る。
伊達『・・・・・・で?』
柏木『聴くんだったら、かけていいよ』
伊達『お宅もかけませんか』
とチェアをすすめる。
伊達、プレーヤーを始動させる。ピアノコンチェルトが流れる。
柏木『(坐って)・・・・・・こんなこと言っちまうとミもフタもないが。2週間前、ウチの警部補が刺し殺され、拳銃を奪われた。ひどい雨の夜でね。それから4時間後、その拳銃で3人のゴキブリが殺された。犯人は全く見当がつかない。ただ、犯行の前後にそれらしい男を見たという情報はある。身長1メートル80以上、ガッチリした肩を落としてまるで死人のようにひっそりと歩くのが印象に残ったそうだ』
柏木、一語一語区切るように話しながら、伊達の反応をうかがう。
全く無表情の伊達。音楽に聴き入る。
柏木『もっとも、この情報は捜査会議で一蹴されてね。150人の専従捜査員でこだわっているのは、俺ひとりだ。―聞いてないようだな』
伊達『聴いてますよ。いい演奏だ。・・・・・・で、あなたひとりがどうしてこだわるんですか』
柏木『(気勢をそがれるが)誰もが気にもとめないからさ。逆にみんながワッと飛びつく情報なら俺はアッサリ下りるね。性分なんだから。しょうあんめェ』
伊達『カンは当る方ですか』
柏木『そこが問題でね。・・・・・・』

68 @kira 2013-02-23 15:47:18 [画像] [携帯]

柏木『俺は赤木圭一郎と同じトシなんだ。あいつが調布の撮影所でゴーカート乗り回してる時間に、俺は新宿のトリスバーで、昼間っからハイボールくらっててね、1杯100円だったかな。7、8杯飲んでモウローとした時に、何だか知らんが、今日はドエライやつが車ぶつけて死ぬと直感したんだな。そしたら夕方の臨時ニュースだ。ぶったまげた。それから俺の霊感を信用することにしたんだ。ただ刑事になって一度も当ったことがない』
伊達『・・・・・・今回は?』
柏木『あんたが答えを知ってるだろう』
伊達『・・・・・・』
柏木『否定も肯定もしないわけか』
流れるピアノコンチェルト。
柏木『ベートーヴェンかね』
伊達『(頷く)ピアノ協奏曲第五変ホ長調』
片頬だけで笑ってジャケットを見せる。
『皇帝』である。低く笑う、柏木。
柏木『・・・・・・で、どうするね、これから』
伊達『これから?・・・・・・予期せぬ質問ですな』
伊達、紙袋を見せる。
伊達『とりあえず神田の出版社に届けますよ。翻訳の仕事をしているんです』
柏木『ほう』
伊達『どうってことのない、ごく普通の市民ですよ』
柏木『そうかね。(ギラッと見て)今夜あたり、寝汗をかくんじゃないか』
伊達『(微笑)帰りにベビーパウダーでも買っていきますか』
と、目を閉じる。
柏木『住所、氏名は?』
伊達、既に柏木など眼中になく、音楽に聴き入る。
柏木『・・・・・・』
 
シーン38
[山手線・車内]
夕刻。満員の客にもまれて、伊達がレコードと紙袋を高く差上げている。
背の高い伊達は、平均的サラリーマンが一様に押し黙り、俯向いているのを見下ろすのが、たまらない。
屠殺場に向かうドブネズミども。近くで見張っている柏木もそのひとりである。
 
シーン39
[神田駅]
ホームには帰りの客が溢れている。
電車から下りた伊達、蒼ざめた顔でかきわけてゆく。
さらに階段の混雑にもまれた時、気分が悪くなった。
うずくまって吐く。柏木が怪訝な顔で覗き込む。
途端に人波に押されて、伊達から離れてゆく。
柏木、慌てて元の所に戻るが、既に伊達の姿はない。

69 @kira 2013-02-23 15:51:34 [画像] [携帯]

シーン40
[レストラン]
個室の同窓会会場。里中、結城、平井、東条らが歓談している所へ、乃木が伊達をつれてやってくる。
乃木『いやァ、幹事が遅れて申しわけない。今日は珍しい客をつれてきたよ』
里中『ほゥ、伊達クンじゃないか』
伊達、黙礼して坐る。
結城『通信社、退めたんだって』
伊達『・・・・・・まァ』
結城『インドシナ内戦の時、君が送ってきた写真は圧巻だったけどな』
平井『しかし戦場ばかり駆り出されるんじゃイヤになるわな』
東条『今、何やってるの』
乃木『俺ン所で翻訳手伝ってもらってる』
東条『なんだ、アルバイトか。うちの下請けでも世話しようか。学歴、経歴は申し分ないんだから広報部長ぐらいすぐなれるよ』
伊達『・・・・・・どうも』
素気ない。
里中『君は学生ン時は、図書館と名曲喫茶にいりびたりだったなァ』
乃木『そうそう。半年の内にニチェを全部読みきって、あげくにチャンドラーやハメットまで読みちらかして・・・・・・』
結城『昔から殆ど口をきかなかったが、それは相変らずだな』
乃木『今日は俺がムリに誘ったんだよ』
東条『君は確か射撃部にいたはずだが、今でもテッポー撃ってんの』
伊達『・・・・・・撃ってますよ』
東条『日本じゃウサギとか鳥ぐらいしか撃てんだろう』
伊達『・・・・・・それに似たようなもんです』
料理と酒が並んだ。
客席係の真田徹夫は慣れないのか、給仕マナーがどうにもチグハグである。
全員、怪訝な顔をしながらも、グラスを持ち上げる。
乃木『じゃ。―お互い、来年は三十路だ。20代最後の集まりになるだろう。さらば、青春!』
全員『アデュー・ラドレサ!(さらば、青年)』

70 @kira 2013-02-23 15:57:17 [画像] [携帯]

呑み、かつ喰い、賑やかな歓談。
乃木『(平井に)そろそろ外地に行くんじゃないのか』
平井『外務省も人材がダブっててな。なかなかおハチが回ってこん』
結城『東条は今度の外為法違反の騒ぎには関係ないのか』
東条『あれは航空機部門だけだ。俺の鉄鋼部はきれいなものさ』
平井『結城ン所の株はひどいな』
結城『いや、来週になれば持ち直すと思うよ。今日の前引きから久しぶりにジリ高になってる』
東条『いずれにしても中東の情勢如何だな』
結城『まァな。(里中に)大学の紛争はどうなった』
里中『紛争ったって、全闘が結成される前にみんな白けちまってね、俺の研究室にも押しかけると思ったが、平和なもんさ。今どきの学生は何を考えてるのか、さっぱりわからん』
東条『全くだ』
乃木『俺たちもとうとう今どきの若い者て言うようになったか』
他愛なく笑い合う。ひとり、ひっそりと酒を呑んでいる伊達。
ドブネズミどものささやかな宴が苦痛でならない。
(フラッシュ―イメージ)
満員の山手線で、おし黙り俯向いているサラリーマンの群れ。
ガチャン!と音がした。
東条のズボンが泡で濡れ、ビール瓶が床に砕け散っている。
東条『気をつけろよ!』
真田『今のはお客さんの不注意じゃないんですか』
東条『なに!』
真田『まァ、まァ』
と、軽くいなす。
真田『実は俺も来年30なんスよ。つまりお宅らと同い年。大学は出てませんけどね、お互い激動の70年代をシコシコ生きてきたよしみで、仲良くやりましょうや、ね』
伊達、改めて真田を見た。人を喰ったような素振りの中に冷酷な翳がみえる。
東条『(呆れて)この店も質が落ちたな。昔は学卒のちゃんとしたボーイがいたもんだが』
平井『三流の人間がハバをきかす時代だ。我々は黙して語らずさ』
真田『(ムッと)・・・・・・お客さん。言って良いことと、悪い病気がありますよ』
東条が立上がり、真田の襟首をつかむ。
東条『不愉快だな。貴様!店長を呼べ!』
一瞬後、真田の鉄拳が東条の顎をとらえた。
ふっ飛ぶ、東条。テーブルの上が盛大にひっくり返る。
呆然と見守る乃木たち。他の店員たちが駆けつける。
真田『(自分で呆れて)またやっちまったな。・・・・・・マイった』
ブツブツ言いながら、片づける。

―伊達がひっそりと見ていた。

71 @kira 2013-02-23 16:01:51 [画像] [携帯]

シーン41
[警察署・前]
釈放された真田、ブラブラ歩き出す。―追う、キャメラ。
 
シーン42
[横須賀・ドブ板通り]
わずかな手荷物を持った真田が来て、あるバーの前で立停まる。
2階を見上げ、フッと振り返る。
背後には誰もいない。
真田、バーの裏階段を登ってゆく。
 
シーン43
[バーの屋根裏部屋(夜)]
バカでかいダブルベッドと、三面鏡とタンスと、それだけの部屋。
壁にフラメンコダンサーの写真が1枚。
真田がひとり、酒をあおっている。
フツフツと煮えたぎるものを抑えて、呑みつづける。
階下から、ジュークボックスと酔客たちの喧噪が登ってくる。
真田、ベッドの上のネグリジェをいきなり引き裂く。
 
シーン44
[同・1階のバー]
カウンターといくつかのボックス。狭い。
米兵とホステスの媚態を、ジュークボックスのポップスがあおりたてる。
内階段から下りてきた真田が、カウンターに坐る。途端に振り返った。
隅に、伊達がひっそりと坐って呑んでいる。
どこを見るでもない、その眼差。
真田―。
伊達―。
閉店後。
カウンターに真田がひとり。
ボックスの隅に、伊達がひとり。
その真ン中に、酔いつぶれたホステス(沙羅)がひとり。
沙羅は、転んでは起き、転んでは起きて、赤いエナメルシューズを履こうとするのだが、ままならない。
黒人の愛唱するブルースを延々と唄う。
ロレツは回らないが、地ベタを這うように生きてきた女の魂が最後まで唄わせるのだ。
沙羅はついにシューズを手に持ち、フラつく足で出て行った。
間。静寂。
真田、とまり木をゆっくり回転させて、伊達を見すえる。
伊達は、相変らず焦点の定まらない眼差。
立つ、真田。
真田『・・・・・・用は何だ?』
伊達『・・・・・・』
真田、ボトルを握りしめて、ゆっくり歩み寄る。
真田『どういう魂胆で尾け回す?』
真田の握りしめたボトル。
伊達『・・・・・・ミスターレディになってくれ。そう頼むわけじゃない』
真田、フッと嗤った。



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